2020年7月30日木曜日

Crass 「Nagasaki Nightmare」(1980) 和訳




Nagasaki Nightmare 
(長崎の悪夢)


(※鎮魂の鐘が鳴り響くなか、Aki Hayashi?による日本語ナレーション/同時に、女性ヴォーカルが英語でその説明を話す)

[1945年8月6日、日本の広島は人類最初の原爆、原子爆弾の被災地となりました。
その結果として、25万人もの人々の尊い生命が奪われたと伝えられています。
その3日後の8月9日には、長崎にも原子爆弾が投下され、6万人もの人々が亡くなりました。
現在どのくらいの人々が原子爆弾の後遺症で亡くなっているのかは把握出来ません。
原爆による死因の過半数は火傷であると伝えられています。
原子爆弾の投下地点から半径1/2マイル以内にいた人々はほとんど亡くなり、
生き残った人々の半数も数週間以内に放射線障害で亡くなりました。
長期にわたる放射線障害もまた悲劇をもたらしています。
白血病、放射線障害、発育不全、悪性の病気等は寿命を縮め、そして死に至らしめています。
放射能は風に乗って何百マイルもの広範囲に拡散され、
雨や雪に混じって土壌の中に堆積されていきます。
地球上で行なわれる原子爆弾の…]

…ジャアァァァァァァァァァァァァーン(銅鑼の音)




彼らはいつまでもあの空にいる
長崎の悪夢 長崎の悪夢
将軍の目に映る眩い光景
長崎の悪夢 長崎の悪夢
彼らは一度犯したことをまたしようとしている
我々に死の雨を降らせようとしている
長崎の悪夢 長崎の悪夢

子供たちを帝国水域で釣り上げる
長崎の悪夢 長崎の悪夢
息子たちと恋人たち 恋人たちと娘たち
長崎の悪夢 長崎の悪夢
枝垂桜に閃光が走る 
目をくらませるような閃光が
何も見えやしない
長崎の悪夢 長崎の悪夢

瀕死に陥った一人一人が静かに死んでいく
長崎の悪夢 長崎の悪夢
日出づる国の闇
長崎の悪夢 長崎の悪夢
教訓を学ぶのか?いいや なぜなら誰も気に掛けないだろう
お前の恐れを覆い隠すなんて簡単だからな
長崎の悪夢 長崎の悪夢


悪夢の中で 長崎の悪夢の中で 段々と死んでいく
そして それと共に生きている
そばに立ち寄り また繰り返すのか?
死の雨の悪夢

悪夢の中で 長崎の悪夢の中で 共に生きている
そして それと共に死んでいく
死の雨の悪夢がやってくる
悪夢 悪夢 悪夢の雨

人口の力 人口の傷
死の雨 死の雨
彼らはまた繰り返す 我々に死の雨を降らせる
死の雨 死の雨 死の雨
長崎の悪夢 長崎の悪夢
                    ・
                    ・ 
                    ・
(※鎮魂の鐘が約1分間響き続ける・・・。)





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(以下雑文)



長崎悪夢。1980年のEPに収録。

自分が原爆や戦争、そしてCrassについて興味を抱いたきっかけの曲でもあり、初めて自分で訳そうと思った英語の曲です。中学のときの思い出が甦ってきてかなりこっぱずかしい。


Cock Roachの原子爆弾万有引力考想曲を見つけたときと同じく、2ちゃんねるオカルト板の原爆に関する曲?怖い曲?を語ろうみたいなスレで紹介されていて初めて知ったのですが、そこからこれが収録されているBest Beforeを探すためDisk Unionに通いまくってようやく手に入れるのにけっこうかかった気がします。そんなもんだから、この曲を最初に聞いたときの衝撃は凄まじかった。


鎮魂の鐘が鳴るなかを、謎のナレーションが原爆に関する悲惨な情報を恐ろしく淡々と話していきます。お経に近い重苦しい雰囲気の次に繰り出される三味線?ギターのフリーキーさに一瞬笑ってしまいました。そして、素っ頓狂ともいえる甲高い声の女性メインボーカルに「ナガサキナイメア!ナガサキナイメア!」という男性コーラスが重なりあう、ある種異様な雰囲気は、かなりインパクトが強いものでした。

演奏のとっちらかりすぎたアバンギャルドさにはわずかばかりの狂気を感じると同時に、Crassがこの曲で伝えたかっただろう「日本、原爆、戦争」という主題がぐちゃぐちゃに捩じ込まれつつも強引に浮かび上がって耳にこびりつきます。音からして尋常のバンドではないことがわかると思います。

また、「You'll Ruin It For Everyone」、「Well Forked But Not Dead」、「Witham 1981(ブート)」などのCrassのライブ音源にこの曲の存在が確認できます。スタジオ版よりもテンポを早めた音はCrass流ハードコアを聞くことができ、非常にかっこいいです。歌詞の内容やその独自すぎる音とともに、Crassの代表曲だと言えると思います。


バンド自身がよく歌詞のなかに「Hiroshima」という単語を使うことからもわかるとおり、原爆を題材にとる作品では広島がクローズアップされがちです。こういったなかで、Crassには「Nagasaki Is Yesterday's Dog-End」(この曲の歌詞自体には直接長崎への言及はない)という曲があることも含めて、あえて長崎を題材にとった背景には何があるのでしょうか。

これには長崎原爆遺構として有名な浦上天主堂の存在は大きかったのではないでしょうか。単純に考えて、欧米で原爆について語られる文脈のなかの「被爆した教会が長崎にある」という話には強い印象を受ける人々が多いことは想像に難くなく、それはCrassのメンバーであっても同じはずです。しかも「ジーザスアレルギー」といってもいいほどキリスト教憎しを露骨に表現していたCrassにとっては、原爆ドームよりも、自らの国の(忌むべき)文化とルーツがつながる建造物が被爆したという事実に引き寄せられた部分は強いのではないかと考えています。

この浦上天主堂、戦後負の遺産として保存する声が沸き上がるなかで、アメリカの意向を受けたであろう司教や市長らの働きで一度解体された話があるなど、なんともきな臭い話があるのですね。平和を謳う戦勝国の偽善さが浮き彫りになる話です。



また勝手に自分語りに戻るのですが、中学校の頃の給食のときに、放送委員を騙して匿名でこの曲やReality Asylumなどを流したところ、「なんだこの気持ち悪い曲は?!」と問題になったりしてました。完全に放送事故。英語の先生にぶち切れられたなあ。「ホルモンとかバンプ流そうぜ~CD貸すから」って嘘ついてごめん。またその頃の自由学習で「原爆について歌った曲」をまとめてレポートにした記憶もあります。そのくらい、このCrassというバンドならびにNagasaki Nightmareという曲の存在は自分にとって大きかったんだと思います。



最後になりますが、冒頭の日本語ナレーションのAki Hayashiが長年の謎なんですが、当時の日本の原爆ドキュメンタリーなどから拝借したものだったりするのでしょうか?マイルという単位をわざわざ日本語で言わせてるということは、Crassの近しい友人の日本語話者に頼んだとか?自分は広島の平和記念館の学芸員さんにいきなり聞いたこともあるのですが、2人くらいがそのとき調べてくれてしかしわからずだったのです。もし情報を知っている方がいればぜひ教えていただきたいです。



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